住職レター 令和元年12月号

 曹洞宗には永平寺と總持寺という二大本山があり、それぞれに祖門会と嶽山会という、大本山発展を推進し、祖山護持の道業の顕揚を図ることを目的とした会があります。岡山県では毎年それぞれの研修旅行が企画されますが、本年は合同で行われ、12月初旬に、大分県に行ってまいりました。
 別府温泉に一泊して臼杵と熊野の磨崖仏、豊後高田の昭和の町、青の洞門、羅漢寺を巡る旅程でしたが、実は三十年程前に一度、ほぼ同じルートを旅した経験があります。私は当時、愛媛県の道場で修行中でした。お盆中に、田舎に帰らず道場でのお盆まいりを手伝った雲水は、一泊の研修旅行をすることが許されていました。そこで八幡浜から船で大分県に渡り、今回と似た旅程を考えて仲間と巡ったのです。随分前のことで記憶も虚ろでしたが、昔を思い出しながらの懐かしく楽しい旅でした。今回ご一緒する予定でしたが、葬儀の為、急遽キャンセルされた和尚さんがおられましたが、その当時一緒に行った仲間の一人でしたので残念でした。
前回は若さもあって、折角だからとあちこち名所を回ったため、羅漢寺様に到着したのは夏の太陽も沈む寸前で山門は既に閉まっていました。今も昔も変わらずインターホンも鐘も無く、ポストも無いので、道場の老師からの遣い物を渡す為に、山門脇から住まいの庫裏に向かって皆で十数分叫び続けたことを思い出しました。やっと気付いては頂けましたが、早々においとましたので、この度は三十年越しにゆっくりと拝観させていただきました。眼下に広がる山々の紅葉と峻険な羅漢寺の岩肌は、まさに道元禅師のお歌にあります「峰のいろ 谷のひびきも 皆ながら わが釈迦牟尼の 声と姿と」 の世界そのものでした。(山の峰々に現れる色とりどりの姿、谷川を流れる渓流が奏でる音色、これらは全て私のお慕いするお釈迦様の声と、お姿そのもの・・・という意味のお歌です)。自然の中に身を置いた時、そこに神々しさを感じ、安らかな癒しの世界に浸った経験をなさったことのある方も多いことでしょう。道元禅師は、そのことをお釈迦様の声や姿の現れとして捉えられ、和歌に詠まれたのです。この景色の素晴らしさは、三十年前の修行僧時代にはもしかしたら気付くことができなかったかも知れません。再訪することが叶い、本当にありがたいことでした。








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