住職レター H29年3月号

 寒の戻りを繰り返し、肌寒い朝もありますが、だんだんと春らしくなってまいりました。各地でひな祭りを楽しみ、春の味覚を楽しめるようになってまいりました。
 しかし、私にとっては、悲しい知らせから入った3月でもありました。海徳寺の本寺にあたる、ご寺院様のご住職が、56歳という若さでご遷化されたのです。人の生死に関わることが常の日々を送っていますが、本寺様のやり残した思いや、残された妻子や、逆縁のご両親の心中を思うと心乱れる思いでした。
 幸いにも、大学在学中に僧侶の資格を取った大学院生の息子さんがおられ、ご高齢の祖父と共に壇務を引き継がれるそうです。急な不幸に悲しむ間もなく、学業を道半ばで諦め、立派に遺弟(一般の喪主に当たる)を務めておられました。
 寺に生まれた息子は、幼い頃から「いつか寺を引き継ぐ」という使命を否応なく課されます。好きな道を選ぶ自由を与えられても、言葉で言われなくても、自分に対する周りの期待は多かれ少なかれ感じて育ちます。反抗することもあるし、葛藤があったとしても、最後には寺に戻ることが多いのです。随分と時代錯誤なことだとは思いますが、自分の背には、自分が継がないことによって、住む場所を失う家族、住職を失う寺、檀那寺の行く末を案じる檀信徒の皆様があるのだということを、誰よりもわかっているので、それならばと気持ちを切り替えて、この世界で精進しようと思うのです。
 この若い新住職を、檀信徒のみならず、同宗門の寺院でなんとか盛り立てて行って欲しいと願います。








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