住職レター H24年2月号

 2月某日、四国霊場巡りの途中、ほんの気まぐれで伊予宇和島城天守に登ってまいりました。
 移築武家屋敷長屋門から登り、草木がうっそうと生い茂り、苔むした石垣を見上げながら少々険しい石段の続く登城道を息を切らせながら登ると、天守上からは市内はもとより宇和島湾や島々を一望できる絶景が現れました。
 この城を作った藤堂高虎は「築城の名人」と言われています。巧みに五角形の縄張りを配置し、当時の隠密ですら四角形の縄張りと勘違いしています。 縄張りとは城の堀、門、虎口等の配置のことで、城の良し悪しはこれで決まるそうです。
 外見上四角形ですから敵が四辺に兵を配置してしまいますが、実際は五角形ですから一辺が兵の配置のない状態となり、防御側の出撃拠点や物資の搬入路として使えるようになります。これが高虎が編み出した縄張りです。宇和島は不思議な町で、歩いているといつの間にか方向感覚が狂うとか…それは高虎の縄張りに惑わされるからだそうです。
 私たちも色々なものに惑わされそうになりながら生きています。現代の膨大な情報量の中で真実を見きわめることは困難なことです。
 図らずも曹洞宗は昨年『正見−正しい智慧を持って生活しましょう』というメッセージを発信しています。福島第一原発事故による放射線被ばくについての風評被害を受けてのものであったのですが、高虎の縄張で五角形を四角形と思い込むように、歪んだ眼やぼんやりした心で大切なものを見過ごしてはないだろうか…?
 山頂の心地よい風に当たりながらそんなことを考えた旅でした。




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