住職レター 令和4年5月号

 駐車場の鯉のぼりが気持ち良さげに泳ぐ季節になると、敷地内の花たちも、春の花から、初夏の花へと様変わりします。
 昼間は夏日が続くものの、朝晩はぐっと冷え、雨模様の日も多く体調管理も難しい日々です。
 さて、集落にある池の傍には「馬頭観音」さまが祀られており、近所の方がずっと掃除などのお世話をされていました。
 馬頭観音(馬頭観世音)とは観音菩薩が変化したといわれる六観音の一つで、あと5つは聖観音、千手観音、十一面観音、准胝観音、如意輪観音です。
 頭の上に馬の頭をいただいていることから、六道の一つの畜生界を済度(さいど)するといわれ、馬の守護神として昔から広く信仰されています。観世音菩薩三十三化身の内、唯一忿怒の相をしていて、第三の目も持っていて、三つの顔、二つの腕、八臂(はっぴ)も持つと言われています。怒りが強ければ強いほど馬頭観音の人を救う力が大きく、また馬は大食であることから人々の悩みや苦しみを食べ尽くすといわれています。
 元々はどなたかの敷地に祀られていたものが、池の傍に持って来られたようですが、それも随分と昔の話で、詳しい由来を知る者も今はいないようです。
 この度、その集落にある池が埋め立てられて整地されることとなり、馬頭観音さまをどうするかについて数年前から町内会で話し合いが持たれてきました。そして結論として海徳寺の敷地内に移転する運びとなりました。敷地内とはいえ市道を挟んだ場所で、誰でも通りすがりにお参りができます。今まで通り地域の方の目に触れる場所でもあります。工事や移転は、集落のテクノシラタニ様のご好意で全てしていただきました。移転は無事に終わり、あとは最終工事を待ち、その後開眼法要をするだけになりました。その日まで、馬頭観音さまには白い布を巻いて待っていただいています。
 海徳寺の山号は馬乗山といいます。戦国時代柏島にあった畑山城・小山崎城・亀崎城などの武将が、海徳寺の裏山で馬の稽古をしていたことから名付けられたそうです。山号とは、仏教の寺院の名称の前に冠する称号のことで、人でいうところの苗字の様なものです。多くの寺院は山の中に建てられていたので、その山の名前を寺院の名前の前につけるようになりました。お寺の門を「山門」と呼ぶのも同じ理由です。
 馬乗山に馬頭観音さまが来られるというのも何か不思議なご縁を感じます。これからも地域の観音さまとして、共存していただきたいと思います。







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